スポンサーズブースト 西里将志|大学部活×企業採用をつなぐ新発想が「応援」を加速する

創業手帳
弥生キャンペーンバナー
※このインタビュー内容は2025年12月に行われた取材時点のものです。

採用市場の“ゲームチェンジ”を日本全国へ


企業が大学の部活動に小口でスポンサー出資できるプラットフォーム「スポンサーズブースト」。学生の挑戦を応援しながら、企業の新卒採用を支援するという、一見ユニークなこのビジネスモデルは、どのようにして生まれたのでしょうか。

今回は株式会社スポンサーズブーストの代表・西里将志さんに、事業着想の裏側にある「ビジョナリーセールス」という思考法や、前例のない市場を泥臭い営業で切り拓いた創業期の軌跡について伺いました。

西里 将志(にしざと まさし)
株式会社スポンサーズブースト 代表取締役
九州大学卒業後、東京海上日動を経て独立、現在は2社を経営。「第2回営業天下一武道会」および「S1グランプリ2024」の2冠。福岡県出身。平日5時起きの朝型生活を実践中。趣味はサウナ、猫、利酒、ゴルフ、トライアスロン、カラオケ(歌いたがり音痴)。

「部活動支援」×「新卒採用」という発明はどこから生まれたのか

ースポンサーズブーストのサービス内容について教えてください。

西里:企業が大学の部活やサークルに小口スポンサーとして出資できるプラットフォームを展開しています。月3万円から気軽に学生を支援できるのが特徴です。

企業側は新卒採用の観点でこのプラットフォームを利用していて、大学1〜2年生の段階から学生と接点を持ち、関係を深めていける。一方、学生にとっては資金支援となり、キャリアを考えるきっかけにもなる。この双方のニーズをつなぐサービスです。

ー「大学の部活動支援」と「企業の採用活動」を結びつけるというアイデア自体が新しいと感じました。この発想はどこから生まれたのでしょうか?

西里:きっかけは私の原体験からでした。大学時代、ラクロス部に所属していて、部員80〜90人のうち毎年数人は「部費が払えない」という理由で辞めていました。真剣に競技に打ち込んでいる仲間が、経済的な理由だけで夢を諦めざるを得ない。この状況をどうにかしたいと思っていたものの、学生の自分には何もできませんでした。

ー部活動の資金難は深刻なんですね。

西里:はい。実際に、部費に困っている部活動は全体の95%ほどあると考えています。有名大学の伝統的な強豪クラブのようにスポンサードされている部活動は少数で、ほとんどは資金が不足しています。

ただ、学生時代は何もできませんでした。転機が訪れたのは、社会人を経て起業した立場になってからです。今度は「企業側の新卒採用の難しさ」を痛感したんです。特に地方企業は、求人媒体に載せても地元の学生になかなか見てもらえない。リアルな接点を持つことが本当に難しい。

そこで気づいたんです。学生側には「資金がほしい」というニーズがあり、企業側には「学生と早期に接点を持ちたい」というニーズがある。この二つをつなげば、両方が幸せになれるんじゃないかと。

課題の本質を探る「ビジョナリーセールス」という思考法

ー先ほど、学生側と企業側の課題を結びつけられたとおっしゃいましたが、そもそも「一見離れた二つの課題を一つの事業にする」という発想自体が難しいように思います。その発想を可能にしたものは何だったのでしょうか?

西里:会社員時代に培った考え方が大きいと思います。私は大学卒業後、新卒で東京海上日動火災保険に入社し、5年半勤めたのですが、そこで上司から教わった「ビジョナリーセールス」という考え方が、この発想の基盤になりました。

ービジョナリーセールスとは、どのような考え方なのでしょうか?

西里:一言で言えば、「目の前の課題だけでなく、その先にある本質的な課題を見つける思考法」です。

たとえば、お客様が「保険を見直したい」と言ったとき、多くの営業マンはその要望に応えて保険商品を提案します。でも、ビジョナリーセールスでは、もう一歩踏み込んで考えるんです。「なぜ今、保険を見直したいのか?」「3年後、5年後のビジョンは何か?」と。

すると、実は事業拡大を計画していて、それに伴うリスクマネジメントが本質的な課題だったりします。そこまで見通して、お客様自身も気づいていなかった未来の課題まで一緒に整理していく。つまり、表面的なニーズの奥にある「本質的な課題のつながり」を見つける思考法なんです。

ーなるほど。その思考法が、学生の資金難と企業の採用難という二つの課題を結びつけることにもつながったんですね。

西里:まさにその通りです。学生側の「部費が払えない」という課題と、企業側の「学生と接点が持てない」という課題。この二つは一見バラバラですが、本質を掘り下げると「学生が挑戦する機会を失っている」「企業が優秀な人材と出会う機会を失っている」という、どちらも機会損失なんです。

そして、その奥には「若者の挑戦を支える仕組みが足りていない」という社会課題があります。この本質的なつながりが見えたとき、「企業が学生を支援しながら、採用にもつなげる」という事業モデルが形になりました。

「前例のないサービス」をどう売ればいいのか?

ーサービス開始後、大学と企業、それぞれにどのようにアプローチされたのでしょうか?

西里:大学の部活動やサークルの公式SNSにDMを送ってみたり、大学の学生課に電話してつないでいただいたりと、かなり地道な営業活動を続けていました。当時は営業チームもおらず、私一人で動いていましたね。

ただ、大学側と企業側では反応がまったく違いました。大学の部活動では資金不足というニーズがはっきりしていたので、プラットフォームへの登録は比較的スムーズでした。一方で、企業側は「学生にスポンサーしながら採用につなげる」という前例のない概念を一から説明する必要があり、苦戦しましたね。

ー企業側への営業で、特に工夫されたポイントはありますか?

西里:一つ目は、市場環境の変化を起点に語ることです。企業の採用担当者の方に対して、「待つ採用ではなく、出会いに行く採用をしましょう」と丁寧に伝えていました。

今は完全な売り手市場で、待っているだけでは学生は集まりません。企業側からリアルな接点を創出し、自社の魅力をPRする必要がある──この市場背景を伝えることで、「なぜ今、この仕組みが必要なのか」を腹落ちしてもらえるようにしました。

二つ目は、中長期の価値を示すことです。1年目にスポンサーした学生が2年目、3年目も関係が続き、後輩に「あの企業いいよ」と紹介してくれる。自社独自の採用ルートが育ち、採用資産が積み上がっていく。この視点を伝えることが、企業の意思決定を後押ししたと思います。

ーそうした地道な営業を続けられて、現在はどれくらいの規模になっているのでしょうか?

西里:現在は約100大学・600団体、企業は約100社が登録してくださっています。2026年卒の採用シーズンからようやく本格的な成果が出てくるタイミングですが、現時点でも「内定につながった」「インターンにつながった」という事例は出始めています。

ー実際にサービスを利用している学生や企業からは、どのような反応がありますか?

西里:学生からは、遠征費・備品購入・指導者への報酬など、限られた部費では後回しになっていた部分に充てられると喜ばれています。企業側も、特に地方企業からの反応が良いですね。学生とリアルな接点が持てるだけでなく、「地元の若い学生を応援しながら採用にもつなげられる」という社会的意義に共感いただけるケースが多いです。

採用広告費を「応援」に変えるビジネスモデル

ー大学の部活動支援という社会貢献性の高い取り組みを、どのようにビジネスとして成立させているのでしょうか?

西里:正直に言うと、スポンサー料からいただくプラットフォーム利用料だけでは収益性が限られるので、大きく二つの収益モデルで事業を支えています。

一つ目は「採用コンサルティング」です。スポンサーを入口として、企業の採用課題そのものに踏み込んで支援しています。二つ目は「地域展開×地方メディア連携」で、採用市場のお金の流れ自体を組み替える挑戦です。

ーまず採用コンサルティングについてお伺いします。企業と学生をどのようにつないでいるのでしょうか?

西里:スポンサー企業には、年間16回の交流機会を提供しています。オンラインが毎月1回、オフラインが年4回です。

ここで重要なのは、いきなり採用の話をしないことです。

1回目は企業の方が試合を観に来たり、学生がオフィスを訪問したりして、まずお互いを知る。2〜3回目は「将来どんな仕事をしたいか」「社会にどう関わりたいか」といったキャリアについて一緒に考える場を設け、その中で自然と業界や企業の魅力を伝えていく。そして4回目以降で初めて、本格的な採用の話に入っていきます。

学生にとっては、就活が始まる前に企業と深く関わりながら自分のキャリアを考えられる貴重な機会になっています。

ーなるほど。単なるマッチングではなく、採用戦略そのものをサポートしているんですね。では二つ目の「地域展開×地方メディア連携」についても教えてください。

西里:従来、企業が新卒採用に使うお金は、人材紹介会社や求人サイトといった仲介業者に支払われていました。このお金を、頑張っている学生本人に還元する仕組みに変えられないか──それがこのモデルの発想です。

たとえば『ホットペッパー』が、飲食店が広告代理店に支払っていた広告費をクーポンとして顧客に還元したように、私たちは企業の採用費用を「部活動支援」として学生に還元しています。さらに参加企業を地方テレビ局や新聞社が「地域の若者を応援する企業」として番組や記事で紹介する流れも作っています。

学生は資金支援を受け、企業は地域でのブランド力が高まり、学生が地元就職すれば地域活性化にもつながる。この「応援が循環する」仕組みこそが、社会性と収益性を両立させる鍵だと考えています。

資金調達も組織づくりも、根底には「普遍的なロジック」と「愚直さ」があった

ー地方創生モデルのお話を伺いましたが、こうした構想を実現するには資金も必要だったのではないでしょうか?

西里:はい。スポンサーズブーストでは、事業をスケールさせるために初めて資金調達に取り組みました。「調達のためにできることはすべてやった」と言っていいくらいで、ピッチ大会、投資家向け講演会、マッチングプラットフォームなど、あらゆる接点を作りました。

ー調達は順調でしたか?

西里:事業の社会的意義に共感していただき、調達は想定通りに進みました。ただ、当初は「新卒採用市場でどこまで成長できるか」を十分に描き切れておらず、企業価値の評価(バリュエーション)は思ったほど高くありませんでした。

ーその壁をどのように乗り越えたのですか?

西里:企業への営業と同じく「数を打った」ことが重要でしたね。たくさんプレゼンするうちに、自分の中でイメージが固まっていきました。

そして気づいたのは、東京海上時代の大企業向け営業も、起業後の中小ベンチャー向け営業も、今回の投資家向けプレゼンも、結局はビジョナリーセールスのロジックが重要だということでした。学生と企業の異なる課題をつなげたのと同じように、投資家に対しても「この市場の未来はこう広がる」という先のビジョンを一緒に描くことで、共感を得られました。

ー資金を得て、次は事業を実行するフェーズですね。西里さんの営業ノウハウを組織にどう伝えているのでしょうか?

西里:調達した資金は、採用と営業活動に集中投資しました。現在は社員・インターン合わせて15名ほどの若い組織です。

ただ、スポンサー×採用という前例のない事業なので、営業の正解が誰にもわからない。私が試行錯誤で作った型をメンバーに伝え、各自が応用できるようにするのは簡単ではありませんでした。今は朝礼後に30分のブレスト時間を設け、課題や違和感があれば全員で議論しながら、少しずつノウハウを共有しています

ー人材育成で大切にしていることはありますか?

西里「自分たちがまず挑戦者であれ」と丁寧に伝えています。弊社の事業は「挑戦する学生を応援する」ものなので、自分たちが挑戦していなければ説得力がありません。社内で挑戦の炎が広がることで、それが学生にも企業にも伝わる。この“挑戦が循環する”社内風土を大事にしています。

挑戦するすべての人へ贈る「3つの言葉」

ー今後の展望を教えてください。

西里:47都道府県すべてで、企業が学生を直接支援しながら採用につなげる仕組みを展開したいと考えています。これまで人材会社や求人サイトに流れていたコストを学生支援に変え、応援する企業が評価されるような、採用の新しいスタンダードを作ります。

私たちがやろうとしているのは、単なるプラットフォーム事業ではなく、採用業界の常識を変える挑戦です。「誰が中間マージンを取るか」ではなく「誰が若者の挑戦を支えるか」を競う時代をつくりたい。その転換を起こすゲームチェンジャーになり、地方から日本を盛り上げていきたいと思います。

ー最後に、これから起業を目指す方へメッセージをお願いします。

西里:三つ、お伝えしたいことがあります。

一つ目は「意志あるところに道は開ける」という言葉です。これはとても有名な格言ですが、私はそこに、「コツコツ継続する」という要素を加えたい。「これを実現したい」という意志はもちろん必要ですが、それだけでは道は開きません。小さくてもいいので、日々努力を積み重ねることで、初めて道が開けると思います。

二つ目は「楽観的に構想し、悲観的に計画し、楽観的に行動する」という稲盛和夫さんの言葉です。起業の初期は「こんなものあったらいいな」とゆるく楽観的に構想すればいい。ただ実行する直前は、数字面も含めて慎重に計画する。そして最後は思い切り行動する。このリズムが大事だと思います。

三つ目は、先ほども触れた「挑戦者たれ」という言葉です。知らない世界に行こうとしているんですから、壁にぶつかるのは当然のこと。その壁こそが、新しいステージへの入口です。恐れすぎず、一歩を踏み出してほしいと思います。

(取材協力: 株式会社スポンサーズブースト 代表取締役 西里 将志
(編集: 創業手帳編集部)

創業手帳
この記事に関連するタグ
創業時に役立つサービス特集
このカテゴリーでみんなが読んでいる記事
カテゴリーから記事を探す